『がんとゲノム医療』の今後⑤ ~日本における『遺伝子パネル検査』~
2019.03.22
こんにちは
徳英の関川です。
前回は分子標的薬(細胞の暴走を引き起こす異常な遺伝子をもった細胞のみを狙撃する薬)でより小さな副作用で『がん』治療をするため、人によって違う異常な遺伝子を一気に調べる遺伝子パネル検査(遺伝子情報を高速に読み出せる装置を使って遺伝子異常を調べる検査)について紹介しました。
第5回は日本における『遺伝子パネル検査』について紹介させていただきます。
日本の『遺伝子パネル検査』
日本において遺伝子パネル検査(遺伝子情報を高速に読み出せる装置を使って、遺伝子異常を調べる検査)をしたいとなった時に使われる主なものは2種類あります。
一つは国立がん研究センターが中心となって開発した『NCCオンコパネルシステム』、もう一つはアメリカで開発された『FoundationOne(ファウンデーションワン)』です。
『NCCオンコパネルシステム』は127遺伝子、『FoundationOne(ファウンデーションワン)』は360遺伝子を一気に解析することが可能です。
また、慶応義塾大学の『プレシジョン』や東京大学の『TOP』など、各大学でも独自のがん遺伝子パネル検査システムが開発され、実際に使用が始まっています。
現在、日本ではゲノム医療を必要とする患者さんが、全国どこにいてもがんゲノム医療を受けられるように体制整備が進められていますが、その肝となるのがこの遺伝子パネル検査です。
公的医療保険制度で遺伝子パネル検査が可能になるように協議を進めている段階にあります。
目指すのは、『がん』と分かった段階で、すぐに遺伝子パネル検査を実施し、検査結果に基づき分子標的薬を使用して治療します。
再発の早期発見の為、血液や尿検査で『がん』の発生が分かる技術(『リキッドバイオプシー検査』といいます)を使用し、再発が見つかったら再度パネル検査を実施という流れです。
一人一人違う『がん』に対する個別化医療が、がんゲノム医療によって可能になるのです。
とはいえ、現在の段階では遺伝子パネル検査を使った全ての患者さんに治療法が見つかるというわけではありません。
慶応義塾大学の『プレシジョン』の検査実施実績によると、205症例のうち異常遺伝子が見つかった人は92%に上るのに対し、実際に治療したのはその中の13%しかありません。(異常が見つかった中には「治療が必要ない」という人もいます)
それでも、治療をされた方の中では劇的に効果があった人が38%、『がん』の増殖を止めることができた人は73%となっているので、今までのがん治療よりも効果の高い治療が可能なのは明らかになりつつあります。
では、なぜ実際に治療した方が少なくなってしまったのか?
その要因の一つは『お金』です。
次回は『ゲノム治療を行った場合の実際にかかる費用』についてご紹介します。